Hanok Essay Seochon
why

自身のための歓待の空間

人の視線は、物理的に内ではなく外を向いている。自分を見るのではなく、他人と同じ外を眺めるしかない構造になっている。そのためか、自分を優先するよりも向かい合う相手を優先する時間に対し、多くの努力と気を使って生きていく。毎日の小さな選択も同じだ。もしかすると今日の昼食のメニュー選ぶ時でさえそうだったかもしれない。誰かを迎える準備や心持ちには多くの時間と努力を傾けながら、いざ自分に対しては、丁寧に接する努力を疎かにしているのではないか。忙しく早く、夢中で暮らしながら得る外の情報ばかりが更新され、外でなく内、つまり自分自身の内面を深く見つめることに時間を使ってはいない。 バランスの取れた生活が自らの毎日を支える力だということを知りながらも、そのような時間と経験を簡単に持つことができないのが今の現実だろう。他人へ時間を使い、他人をもてなすことに慣れた自分。そんな自分自身への歓待、もてなしをプレゼントしたいのなら、今からでも遅くはない。さらに遠くへ行く必要もない。退勤後、簡素にまとめた荷物を手に景福宮駅で降り、低い建物の間を横切って西村、楼下洞の路地に位置するHanok Essay Seochonへ。数時間の滞在が一編の文章になる。

20坪ほどのHanok Essay Seochonは、築80年の韓屋を現代人に合わせてリニューアルしたステイである。ホストのチョン·ソクウォン理事は、「試みる」という意味のフランス語からEssay(エッセイ) - 「形式にとらわれない自由」という意味を込めて韓屋の後ろに付けた。韓屋という大きな枠の中で、韓屋という形式だけにとらわれず今日の人々に合った憩いの場として自由に解釈し、「Hanok Essay Seochon」と名付けた。ある特別な経験とアクティビティを準備してゲストたちが楽しみ尽くすステイではなく、一言でいえば「何もしない」ことが一番良いという今の私たちが必要とする休息の空間。安らかに体を休め、時間によって変わる太陽や月、風の変化を感じながら心まで豊かになる空間を作った。自分ではやり遂げられなかった自分だけのための丁寧なもてなしが、ここでは容易にこなすことができる。
people

人間らしい温かさを求めて

20年近くをIT企業の会社員として勤めたチョン·ソクウォン理事は、幼少期を除き生涯のほとんどを都心の中のマンションで暮らした。彼は歳月が過ぎ自然に年を取っていけば、いつかは無味乾燥なコンクリートマンションとは逆の生活、もっと自然が近く庭のある韓屋で生活するという漠然としたロマンを抱いていた。不便だが懐かしい人の匂いと温かさが漂い、雨が降れば優しく懐かしい土の匂いがする庭、そして自然の変化がよく感じられる室内、木造の自然材料が与える安らぎを持った韓屋は、いつの間にか彼の頭の中の住居空間の理想郷になっていた。

数年後には独立し、自分の人生の道を歩む娘。娘の独立前まで、彼女の居心地よく過ごせる適当な場所を見つけ出したかった。もしそういった場所に出会えれば、そこに定住するのではなく宿という形式で借り、そこを頻繁に行き来しつつ、老後に定住するに値する適切なところなのか、落ち着いて観察していくことを望んだ。毎日の生活、そしてLivingから離れ、自分の人生についてじっくり考えることができる空間での滞在。周りの人から離れ、自分一人で完全に、又は二人きりでゆっくり休めるように。そんな希望に対し、切実さという息を吹き込んだおかげだろうか。彼の真心と努力を込めてはっきりと描いたビジョンが、まさに今の韓屋エッセイを形作った。
Hanok Essay Seochon
location

日常への早い復帰が可能な西村

西村はソウルの西側の町、そして景福宮の西側にある村を指す別称だ。東にある景福宮と青瓦台のおかげなのかソウルの他地域とは異なり高層ビルがぎっしりとは建てられず、昔の姿と趣が残った貴重な場所だ。ソウル市鍾路区とは思えないほど町内の建物の高さが低く、静かだ。質素な韓屋や可愛らしい商店の間を歩き、曲がりくねった路地に沿って行くと、寿城洞渓谷、緩やかな仁王山の麓までも辿り着ける町だ。ソウル都市の真ん中で、静かに流れる水の音や鳥の鳴き声、路地を歩く足音まで聞こえてくる。

朝鮮時代には医学天文学、地理学などを専攻した中国人たちや謙斎·旌善、秋史·金正喜が暮らしており、近代では画家の李仲燮(イ·ジュンソプ)、詩人の尹東柱(ユン·ドンジュ)、作家の李箱(イ·サン)など文人たちと画家たちが集まって暮らしていた。韓国の趣と美を秘めたこの町は、ただ歩くだけでも安らぎを感じることができる。さらには、ソウル市の韓屋保全区域でもあり、数百年もの間守られてきた宮殿の隣に位置するため、ソウルを訪れた外国の方達にも広くアピールできる最適な地域だ。なにより地下鉄を利用すれば容易に着くことができ、日常生活へのスムーズな復帰も可能だという大きな長所を持っている。そして3号線の景福宮駅1番出口を出て宿に向かうまでの道のりすらも旅行の一部となる。
MAKING STORY

ホストのチョン·ソクウォン取締役インタビューより/

初めから宿という目的に合わせ新しく空間を構成した。キッチン、洗濯機、クローゼット、倉庫など、生活に必要なものをなくす代わりに、宿という目的に合う寝室、浴室、ラウンジなどに大部分の空間を割いた。STAYを初めて試みるので、あちこちにあれこれと加えたいことが多かったが、設計と監理を担当したZ_labがそれらを減らす努力をしてくれた。 Z_labという若い建築家集団に出会い、計画した条件が十分に満たされた韓屋を実現することができた。実際、Z_labがいなければ、西村の韓屋をリフォームしようとは思わなかっただろう。

修繕前の建物は、韓屋の骨組みを持っていた。しかし数十年間の間に居住者の便宜によって改造され庭もなかった。建物の塀も赤いレンガ塀に変わっていた。庭と韓屋の門を建て直すためには、まずは韓国式の塀を新しく復元しなければならなかったのだが、塀については2つの考慮点があった。まず、路地から眺める景観の連結性。左側に面している家が非常によく修繕された韓屋だったため、その家の塀との調和を構想した。そして塀の高さを同じように合わせ、瓦の装飾を同じ間隔で繋ぎ視覚的な連結性を達成した。二つ目は内部景観、つまり庭の背景部分の塀。小さな庭だが、建物の構造のおかげで室内のどこからでも庭がよく見える。そこで瓦の間にはホストが古材商から直接手に入れてきた軒丸瓦を飾った。一般的に石材には同じ正方形の形をした石を積み目地で仕上げる技法が多く使われるが、他の技法を選択した。大きさが異なる石材を積み上げる技法で、各石が噛み合っているように見えるより強固な「肩掛け」技法だ。この技法を知る石工職人を長い間探し、運良く出会うことができた。その職人の方が作業中につぶやいた独り言が今でも胸に残っている。「韓屋の完成は塀の完成だ。」

庭の縁側の下にはㄱ字の基壇石があるが、この基壇石はこの家が建てられた当時からあったものと推定される。基壇石は数十年の間で、入居者が庭にボイラーを敷いたために地中に埋まっていたが、工事を進めていく中で発見され、それをそのまま生かした。基壇石の上に縁側を置き、主な出入口となるラウンジの室内まで縁側の形を引き込んだ。室内の縁側はラウンジ空間と寝室空間を区分するだけでなく、テーブルや長椅子の役割も一緒に果たしてくれる。

木造の韓屋は遮音がしづらいが、天井と壁の遮音機能には気を配った。ガラスにも防音性の高いガラスを使い、結果的に一般的な録音室のノイズレベルである25dBという水準にすることができた。そして韓国の亭子を研究している知人の、全国を駆け回り見た木の中で韓屋の塀と最も相性が良いのはサルスベリ(百日紅)だったという話を思い出し、造園を担当したDEWSONG PLACEの方々がサルスベリを植え付けて完成したのが、見事に調和された塀と庭の風景だ。

Z_labのノ·ギョンロク代表インタビューより/

どこよりも力を入れた空間は、最初にゲストを迎えるラウンジ空間だ。韓屋という枠組みはあまりにも強い伝統性を持っている。そこで伝統に強くこだわらずに西洋を少し取り入れ、ラウンジに土足のまま入れる案を建築主に提案してみたが、快く受け入れてくれた。

プロジェクトが始まる前、建築主が私たちに大きなテーマを投げかけた。発展した文明というのは活発な交流と疎通から作られていくが、このような交流のためにはどんなもてなしの空間を作ればよいか、そのようなもてなしの空間には何が必要なのか。それらをZ_labなりに解釈してほしいという話だった。現代のソウルで、「もてなしの空間とはなんだろうか?」これが非常に重要なキーワードであり出発点だった。西村の地域性を思い浮かべながら私たちの生活と昔の方達との暮らしを振り返ってみると、過去の先祖達は本人の審美性や文化的な趣向を表わして交流するために舍廊房を作った。私たちは現代的な生活を送りながら核家族化し、マンションに入ると自然にそのような空間を失った。 家と外の生活が完全に分離された現代にとって、そのような生活が固着していったのではないかと思った。生活の空間は都心またはアパートにあるが、彼らにそれぞれのを舍廊房を作ってあげようという観点でラウンジ設計を進めた。ただ、韓国的な感性と同時に、現代的なライフスタイルにも溶け込ませるため、西洋風のホテルラウンジを取り入れる試みをした。そのために西洋のプライベートホテルのラウンジで寛ぐとき、どんな構造や要素があるかを考えた。ただ、韓屋の良さを損なわないようにするため、それらのデザインは東洋的な色彩とディテールを考慮して作った。

Z_labがこれまで行ってきたリモデリングプロジェクトは、既存の空間が持っている地域性や建築物の特徴を蘇らせながら新しい要素を加えることを最重要に考え、それを基盤にストーリーテリングをしていくプロセスがある。韓屋エッセイの場合、他のプロジェクトとは少し違った。長い間住居用の韓屋として使われ、破損された多くの部分を減らし、むしろ韓屋としての要素がどこまで残っているのかを探し出す過程が必要だった。一次撤去をしながら現代に加えられた部分がどこまであるかを見つけ、それらを取り除いた後に再び作業に入った。既存の韓屋を他の韓屋プロジェクトよりも伝統的な雰囲気にし、その中に入る平面とプログラムを新しく再編する方法で進めた。一次撤去をする度にかなり揺れたが、韓屋の木の構造が思ったよりは良い方で、既存の木の構造を生かすことができた。既存の屋根は金属の屋根材で重ねられており、伝統瓦が良い状態で残っていると思っていたが、そうではなかった。つまり瓦を完全に交換しなくてはいけない工事が追加され、それに伴って予算と日程がもう少し増えることになった。瓦は2種類を適切に混ぜ合わせた。漏水を解決するのに大きな役割をする雌瓦には伝統瓦である新瓦を使い、外装に多く見られる雄瓦は古瓦を使い施工した。これらの方法が、私たちが想像した時間の垢がにじみ出るような、自然でありながらも現代的な機能を果たす適切な方法だと考えた。

ラウンジは全体的に暗く集中感を与える空間にと考えたが、夕方に移り光が散る瞬間の新しい経験を与えたかった。最初に機能していたのは、ガラスブロックでできた長い窓だったが、これは建築主と担当デザイナーのチェ·ガラムが一緒に考えたアイデアだったようだ。家が日が沈む方向に背を向けているため、日が暮れる頃には建物に光が入らずかなり暗い方だ。建築主の方が後方から来る光を活用してみようという案を出し、それを表現するための窓をほのかなテクスチャー感を持つガラスブロックを利用しようというアイデアを私たち側から出した。光が斜めに入るようにデザインし、深く、そしてほのかに落ちる。その光と影がいいように表現できた。さらに光に関するもう一つの面白い話がある。浴槽に水を張った時、水の光が反射して壁をちらつかせたのだが、実際そのように映すことは計画していなかった。意図せず光の揺れが生じて新しい光の活用が偶然生まれたことに驚いた。#
初めて向かい合った建物は、古すぎるように見えたので、一度壊して新しく建ててみようかと悩んだ。しかし1次撤去をしてみると、緻密な設計によって80年余りの歳月を耐えるだけの丈夫な骨組みを持った家だった。もしも新しく建てようものなら想定より多くの時間が必要なだけでなく、昔のものとの断絶が起き、望まない損失がありそうな予感がした。そこで本来の木の構造を生かしながら直していくという決定を下した。現在の韓屋エッセイ西村を支える12本の礎石と柱、垂木などの構造のほとんどは、本来からあったそのままの姿だ。実際このような部分は制約にはなるが、今の現代人、ゲストが不便に感じない構造を目指した。最近の人々は座敷よりもテーブルでの食事にはるかに慣れている。ホストのチョン·ソクウォン理事はずいぶん前、外国人観光客にサムゲタンをもてなしたことがあった。ちょうどテーブル席が満席で座敷席に案内をするしかなかったのだが、1時間ほどの食事は彼らの足にとっては拷問だった。韓屋の伝統的な室内構造は座敷だが、外国人だけでなく私たちにとっても座敷での食事は少々疲れる。そこでこの部分から根本的に変えることにした。韓屋の伝統は残しつつ、室内構造は立式で。木の構造と韓国式の瓦を生かし、塀と門には伝統美を備えるものの、残りのすべては不便がないよう、私たちに馴染みのある立食構造を適用する新しい試みをすることにした。

単純に必要な家具だけを入れても解決できることではなかった。それによって低くなった階高はむしろ休息を妨害するだけで、本末転倒になるという考えを持った。また、彼は会社に勤めていた時、頻繁な出張によって数百ヵ所の宿に滞在した。その経験から宿が持つべき核となる機能を定義した。それは次のとおりである。スペースが広い必要はないが、各機能を果たす動線はシンプルであるほど良い。ベッドは最大限広く、横になった時に腰が深く折れず、丈夫でありながら体に触れる部分は柔らかい肌触りを持たなければならない。寝具は清潔で肌触りが良く、においがしないようにしなければならない。ベッドに横になった時、テレビではなく外の景色がよく見えたほうがいい。当然だが浴槽は深くて広いほど良い。トイレと洗面台、浴室はそれぞれ独立している方が使いやすい。リビングの椅子は快適でなければならず、オーディオがあればなお良い。そして設計時に注文した最も重要な点は'古宅'というキーワードにふさわしい暗くて黒いトーンの古材だった。#
SPACE

形式にとらわれない自由

Hanok Essay Seochonは大門のある庭をㄱ字の建物が挟んだ南向きの構造だ。ㄱ字の建物にはそれぞれ独立したトイレ、洗面室、浴室があ流。東向きの建物にはメインの出入口、ラウンジ、ストーブ、南向きの建物には寝室、浴槽及び床を置いた。そしてリラックスして過ごしてもらうために、火(ストーブ)は東向きの棟に、水(浴槽)は南向きの棟にそれぞれ配置した。

出入口でありラウンジ空間でもある東向きの棟には、環境にやさしいエタノール燃料を使用するストーブがあり、四季を通じて儚い火の揺れをぼんやりと眺める経験を安全に楽しむことができる。そして庭と季節の変化を眺めることができる快適な椅子と、ハイエンドオーディオシステム、直接淹れて飲めるコーヒーとドリップセット、小さなシンクが用意されている。また、高い階高のおかげで開放感があり、韓屋でありながら靴を履いて入ることができる。そんなホテルラウンジのようにゲストを迎えてくれる特別なもてなしの空間だ。その上、外部の縁側は内部まで入り込んでおり、長椅子の役割もする。靴を楽に脱ぎ履きでき、ラウンジと寝室の空間も自然に分離してくれている。真っ暗な夜にもラウンジのガラスドア越しに庭がちらりと見え、ほのかな趣を存分に醸し出している。

寝室でありリビングの役割をする南向きの棟には、庭を見ながら二人で並んで座れるソファとスーパーキングサイズのベッド、深くて広い浴槽、お茶と茶器セット、そしてルームウェアが用意されている。2、3人が体を浸けても余裕のあるほどの大きな浴槽は、板の間の窓のすぐそばにあり庭がよく見える。冬季には温水浴を、夏季には冷水浴が可能だ。庭に向かうガラス張りの窓を開ければ、露天風呂としても楽し無ことができる。印象的なディテールの一つは、ベッドの横の壁から見つけることができる復元した塀の一部を埋め尽くした小さな窓だ。暗く落ち着いた室内の雰囲気を換気することもできる作品となった。浴槽と寝室のガラス張りに設置されたカーテンは絹と麻布を混ぜて作った生地で作られ、絹の柔らかさと麻布の荒っぽい感じが見事に調和し、薄くてよく透けて見える。したがって、外からは中を覗きにくいが、室内からは外がよく見えるため息苦しくない。使用しない時に上に乗せておけば、波状に層ができて瓦の波状ともよく調和する。夜には厚い遮光ブラインドを下ろし、深い眠りに集中することもできる。

ホストは、水と火を媒介として"何もしない"リラックスの空間を企画したのだが、まさにこれに最もよく合う音楽がジャズだった。 空間の木目に合わせて設置したハイエンドオーディオシステムは、ジャズが持つ味を十分に感じることができる。実際、音楽を落ち着いて聞くために重要なのはノイズレベルだが、周辺に自動車が高速で通るような大きな道路がないため室内はとても静かだ。窓をすべて閉め、換気扇も電灯も全て消す。そうしてじっと座っていると、非現実的な静けさを感じられることもある。

最後に、空間を語る上で欠かせないのは新しく復元した韓国式の塀と庭だ。韓国式に復元された塀は庭の背景となっている。小さな庭だが、ㄱ字型の構造のおかげで室内のどこからでもよく見える。そして塀の瓦片の間には、ホストが古材商から直接手に入れた軒丸瓦が飾られており、それらを眺めているだけで退屈しない。キャンバスである塀と庭の造園は、Hanok Essay Seochonを一つの絵として完成させた。
INTERVIEW

ホストのチョン·ソクウォン取締役インタビューより

stayfolio
Hanok Essay Seochon
Hanok Essay Seochonという名前は文学的だと感じます。その名前を付けた理由を教えて下さい。
エッセイは試みるという意味のフランス語から出た言葉だそうです。文章を書くエッセイの核心は形式に従わない自由さにあります。Hanok Essay Seochonは韓屋をテーマにしていますが、韓屋という形式にとらわれず、今日の私たちによく合う休息の空間として自由に解釈してみようという気持ちを込めてHanok Essay Seochonと名付けました。
どのようなテーマとコンセプトを持った空間ですか?
一般的にステイというと、ある特別な経験やアクティビティなどを用意して楽しめるようにすることが多いです。Hanok Essay Seochonは「何もしない」ことが一番の贅沢となるよう企画しました。夢中になってぼーっとできる場所です。なににも集中せずぼんやりしていると、むしろ創意性と想像力を担当する頭脳の一定部分が活性化されるという研究結果があります。Hanok Essay Seochonを訪れる方々は、じっと体を休ませながら、表情が変わっていく太陽や月、風の変化を楽しんでもらえます。そうしているうちに、心もとても楽になることを感じることができます。
空間別の説明をお願いします。そして一番愛着のある空間や、こだわりのディテールがあれば教えて下さい。
Hanok Essay Seochonは、門のある庭をㄱ字の建物が挟む南向きの構造です。南向きの棟には昔の板の間と部屋があり、東向きの棟には台所と向かい側の部屋がありました。Hanok Essay Seochonは鉤型の建物のコーナー部分に独立させたトイレ、洗面室、浴室があります。そして東向きの棟をメインの出入口とラウンジとして使用し、南向きの棟を寝室と浴槽、床通路として実現させました。
韓屋は主要構造部が木材でできており、韓式の瓦を使った建築物の中でも、伝統美を秘めている建築物と定義されています。私は韓式の塀に焦点を当てました。修繕する前、この建物は韓屋の骨組みは持ってはいましたが、数十年間に渡り居住者の便宜によって様々に改造されていました。庭もなくなり、建物の塀も赤レンガ塀に変わっていました。庭と韓屋の門を建て直すためには、韓式の塀を新たに復元しなければなりませんでした。
Hanok Essay Seochonの韓式の塀には二つの考慮点がありました。まず、路地から眺める景観の連結性です。左側に面している家が非常によく修繕された韓屋だったため、その家の塀との調和を構想しなければなりませんでした。そのために塀の高さを同じように合わせ、瓦の装飾を同じ間隔で繋ぎ視覚的な連結性を探し出そうとしました。
二つ目は内部景観、つまり庭の背景部分の塀です。小さな庭ですが、建物の構造のおかげで室内のどこからでも庭がよく見えます。そこで瓦の間にはホストが古材商から直接手に入れてきた軒丸瓦を飾りました。同様に、石材には同じ正方形の形をした石を積み目地で仕上げる技法が多く使われるのですが、他の技法を選択しました。大きさが異なる石材を積み上げる技法で、各石が噛み合っているように見えるより強固な「肩掛け」技法とも呼ばれている技法です。この技法を知る石工職人を長い間探し回って、ようやく運良く出会うことができました。この方が作業中に独り言をおっしゃっていましたね。「韓屋の完成は塀の完成だ。」
韓式の塀がキャンバスだとするなら、庭の造園は一つの絵のように作られなければなりません。韓国の亭子について研究した知人がいるのですが、その方が全国を駆け回りながら見た木の中で、韓屋の塀と一番よく合うのがサルスベリだったという話を聞いた記憶があります。真夏に赤い花が百日中咲くことから百日紅とも呼ばれています。普通、韓式の塀はグレーとホワイト、ブラックなどの単色系がほとんどなんですが、それと赤色の花と緑の葉の調和がとても美しいと話していましたね。
問題はサルスベリが韓国の南の地方の樹木なので、ソウルでは珍しいことでした。造園を担当してくださったdewsong placeの方々に、サルスベリ(百日紅)を探してほしいと伝えてました。そして苦労して手に入れたサルスベリ一本をあたかも最初からそこにあったかのように植えてくださりました。これといくつかの植物も一緒に植えてくださったのですが、とても気に入っています。この夏、どのように花を咲かせるのかとても楽しみです。
正式なオープン前の試験稼動当時、知り合いの方がしばらく見物した後、庭の塀を指して「あの塀は元々あったのですか?」と聞かれた時はとても誇らしかったです。
部屋の中に配置した浴槽と、ラウンジスペースのストーブがとても印象的です。このような水と火のアイデアは、どのように思い付いたのか気になります。また、流れてくる音楽がジャズである理由についても合わせて説明をお願いします。
西村にも繁忙期と閑散期があったんです。周りの商人の方が共通して、夏と冬がオフシーズンだとおっしゃっていました。都心に近い西村は散策を兼ねて景福宮とその周辺を歩きながら行き来するお客さんが多いのですが、夏は暑すぎてむしろ休養地に遊びに出かけることが多く、冬は歩くには寒すぎるので相対的にオフシーズンなのだそうです。これを克服しようとアイデアを出したのが夏には水、冬には火です。
2、3人で浸かっても余裕のある大きな浴槽は、普通の家庭にはほとんどありません。庭がよく見える板の間の窓のすぐ横に置いたので、新しい経験をお届けできると思います。同様に寒い冬、ラウンジでストーブの温もりを感じながら儚く揺れる火をじっと眺めるという経験をしていただけるようにしました。
いずれも水と火を媒介として、「何もしない」のがポイントです。この時一番よく合うと思った音楽がジャズでした。ハイエンドオーディオシステムを通じて聞くとジャズの味わいが感じられると思います。ですが実際、音楽を聞くためにハイエンドオーディオシステムよりも重要なのがノイズレベルです。音楽機器関連のIT会社に長い間勤めていたのでよく知っています。ところが韓屋は木の構造上、遮音にはかなり脆弱です。外の音がよく聞こえ、室内で音楽を流すと隣の家にまでよく聞こえます。なので工事を進める際、天井や壁の遮音性能にとても気を使い、防音性の高い窓を使用しました。結果的に、一般的な録音室のノイズレベルである25dBレベルまで下げることができました。周辺に自動車が高速で走るような大きな道路がなかったので、少し気をつければとても静かな室内を作ることができます。窓をすべて閉めて換気扇と電灯も全部消して座っていると、とても静かで少し非現実的に感じることもあります。私は時々このような状態で、ただ庭を眺めながらじっとすることを楽しんでいます。
Hanok Essay Seochonを完全に享受できるおすすめの過ごし方を教えて下さい。
私は時々ここに来ると、照明と換気扇まですべて消してラウンジチェアに座り庭を眺めながら季節と光の変化を感じたりします。あまりにも静かで安らぐので、まったく別の世界に来たような気がします。だけど実は歩いて10分で景福宮駅に到着できるソウルの真ん中というのも心理的な負担がかなり少ないです。日常への復帰があっという間に実現できる距離ですからね。
ゲストたちにHanok Essay Seochonで感じてほしいことは?
普段忙しく暮らしていながらも、携帯電話は毎時間リロードしています。だけどいざ自分の内面を深く見つめながらリロードするという経験はあまりないはずです。他人に対してもてなすことに慣れている自分に、自分自身のためのもてなしの空間をプレゼントしてみて下さい。ソウル市の地図の真ん中、景福宮のすぐ隣にある西村の路地です。Hanok Essay Seochon
Hanok Essay Seochonの今後の計画がありましたらお知らせください。
特別な計画はありません。強いて言えば最初にオープンした日と同じ状態、つまり毎日最高の状態に維持することが計画です。最高のコンディションをできるだけ長く維持したいですね。

ステイがおすすめする
周辺 レストラン

スペイン食堂 L'estiu

スペイン語で夏を意味するスペイン料理店。旬の食料で作るタパスメニューとバレンシア風パエリア、最上級のハモンが味わえるお店。シーズン別にメニューを変えるなど、料理ごとに真心がたっぷりと込められている。

ひたと製麺所

手作りのスープと自家製麺のコシが絶品のうどん屋さん。基本メニューである温かい地鶏うどんや冷たいつゆにつけて食べるざるうどんが人気で、ここに醤油卵やゴボウ天ぷらを追加すればより美味しく食べることができる。季節ごとに登場する限定メニューも楽しみの一つだ。

ハンバーグ食堂

ジューシーでありながら、ヘルシーなハンバーグを味わうことができる。毎朝練る新鮮なパテで作るランチメニュー、ハンバーグステーキがおすすめだ。

Sage Finch

西村の朝の始まりを迎えてくれる素朴なトースト。朝9時からオープンしている。温かいコーヒーとトーストだけで、食べ応えのある朝食を味わうことができる。

ステイがおすすめする
周辺 カフェ

Say Something

韓屋の枠組みを生かして作られた日差しが気持ち良いカフェ。オーストラリアから届くスペシャルチャイティーと、手作りのティラミスを提供してくれます。

STAY

'何もしない'ことで自分自身の内面を塗り替える

繁雑なソウル、ここは確かに都心の中だ。景福宮の西側の町に到着し、狭く曲がりくねった路地を歩いてくる間、次第に都市の騒音とは遠ざかっていく。過去から今へ、歴史の跡の間を進んでいくと、高い建物がなく日差しが降り注いできた。目的地であるここは、隣の家とよく似た塀を張り、韓国らしい頼もしい門を構えている。ずっしり重いドアを開け、庭に置かれた踏石を順に踏んでいけば、適度なボリュームのジャズが流れたもてなしの空間に到着する。靴を脱がずに韓屋に入る。暗くて重厚な色味のこの空間は、神聖な雰囲気さえ漂っている。そのまま快適な椅子に座り庭の空と長い縁側を眺める。何かをしなければならないという強迫観念から抜け出し、用意された空間を思うがままに享受すれば良い。太陽が位置を変えると、ラウンジの壁の上にある横長のガラス窓から日の光が入ってくる。ほのかな照度にし、深く広い浴槽に水を注ぐ。水が落ちる音は、まるで山奥の渓谷に来たような錯覚を呼び起こす。数分ごとに更新していた携帯電話を置き、自分の内面を更新する時間。特別なことをしなくても、それは可能になる。

4 POINT OF VIEW

ORIGINALITY

休息の空間

整頓されている落ち着いたトーンの空間。誰の邪魔もなくゆっくり休みながら過ごすことができる。真正性を胸に抱き、暖かい火の動きと水の光の中で完全な休息を取ることができる。自らにプレゼントする貴重な時間だ。

DESIGN

過去と現代の調和

韓屋の座敷構造を立食に変えたおかげで、不便を受け入れる必要があるものはここには残っていない。庭から室内のラウンジまで繋ぐ縁側が、東向きの棟と南向きの棟の一体を成し、薄暗い室内からは昼も夜も外がよく見える。古宅が持つ雰囲気と現代生活の構造が調和し、機能性があり見た目も美しい。

Hospitality

じっと、何もしないで

都会の騒音と光からしばらく脱出した気分になる。失われた日常の一片を見つける方法は、複雑な日常から一歩離れること。庭の木一本に耳を傾け、顔を上げ、視界いっぱいに広がる空に心を寄せる。じっと、何もしないから心にゆとりを作ることができる。

PRICE

都心の中、孤立の時間

私だけのエッセイ、その最初のページを書いたようだ。他人の言葉から抜け出し、自分だけの言語を見つけた気分になる。空間の中の落ち着いた火と水、風景を眺めていると平穏と自由が自然に訪れる。日常から一歩離れただけで、自分自身に集中できる都心の中の孤立の時間。何物にも代えられない貴重な時間。

ステイ名
Hanok Essay Seochon

ステイタイプ
韓屋

連絡先

住所
大韓民国 ソウル特別市 鐘路区 弼雲大路3ギル 12

人数 / 客室数
2~2人 / 1客室

価格帯
¥39,531.4 ~ ¥44,732.9

チェックイン / アウト
16:00 / 11:00

こだわり
半身浴 (浴槽·風呂·檜)

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