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why

一冊の本で 日常の隙間を埋める時間

多様なデジタル機器が溢れている新しくも感覚的な刺激によって、本の1ページ1冊に集中する事が容易ではない時代に暮らしている。本は「時間の流れを緩やかに」すると同時に「時間を要する」ので、なかなか手を出せないものである(ルイスバッツビー『黄色い灯りの書店』)。本は「読んでいる瞬間にだけ存在する可能性」であり「音楽でいう楽譜や種のようなもの」であるため、それを拾い集める十分な時間と集中力が必要となる(レベッカ・ソルニット『The faraway nearby』)。良い本や言葉である程に、ゆっくりと読み解き意味を噛みしめなくてはならない「精神の費用」が必須となるが、スマートフォン1つあれば簡単に知的な負担も少なく膨大な量の情報に接続できてしまうために、なかなか出来ないものである。多くの人の診断の様に、本を読むという行為はもはや「時代に逆らう挑戦」になってしまったことも事実である(パク・チョン『読むことの言葉たち』)。

それでも暫く立ち止まらせて考えを巡らせる本と、始まりと終わりが明確で私たちに変えるべき道を示してくれる紙の本の性質は、何にも代えがたいものである。本が手に中から抜け出すいくつかの峠を越えるゆったりとした歩みの様に一枚一枚読み進めていくと、本はついに私を読み始め、私たちを考えさせるのだ。何気なく開いた本が私の心を読み解く言葉となって慰めを得たと思えば、深く考えながらもそれらを才能がないために掴み切れなかった感情や考えを拾い上げてくれる。本は思いもよらない瞬間に「生の枯葉を登りながら躊躇したときに、優しく手を握って起こしてくれる手」になってくれたりもするのである。(パク・チョン『同じ本』)

西村楼下同の狭い路地を抜けた先、葡萄の木の下に佇まう一読一泊は、秘密の小さな中庭を持つ小さな韓屋である。一読一泊はその名の通り、一冊の本とともに過ごす休息の一日を提供している。まるで私たちにだけ許されたかのような中庭の中で空を扇いで本を読み、建具に刺し込む光で時間の流れを読む。本が発生させたスローの磁場に人生の速度を暫し遅らせるかと思えば、本の温もりで人生を満たし温めるのだ。ゆっくりとそれぞれの言葉の意味を振り返りながら、再び日常をじっくりと生きていく力を得るのである。

STAYFOLIOとZ_Labは一冊の本を読むために一日を泊まるという生硬な発送によって、休息における遥か先祖の知恵を引き継いでいる。朝鮮時代の風流を語る「ヌワ」に続いてオススメしたい2番目の場所である。これは若い文臣たちに本を読む時間を与えた世宗大王の賜暇読書制を現在に再解釈させている。西村に留まる長年の結露として溶け込んだ物語は、休息のための孤独と没入の場として存在している。本を媒体として本と本の間、人と本の間を繫ぎ余白に留まらせる一読一泊は、思想の潜在を忘れた私たちに本と共に過ごすスローモーションな旅程に招待してくれる。
people

西村に結ばれた人々が 作った空間、一読一泊

本は人を繫ぎ、また同時に別の本を繋ぐ。「確かに本は人を惹きつける才能がある」というが、これは本と関連する様々な話が染み込んでいる西村にとっても同じ話である。西村と本が自然に呼び寄せた縁が一堂に会したのだ。一読一泊は西村の小さな古民家を修繕し手を加え、4年ほどの時間を共にした若年の夫婦が自身らの空間をステイポリオに任せたいという気持から始まった。韓屋本本来の美感を生かしつつも、時代の適切な解釈を吹き込む彼らの歩みに期待した家主は、快く空いていた韓屋を渡すこととしたのだ。

夫婦の韓屋は彼らの感性によって細微にこだわった上品さを生み出し、固有の生き方と好みが自然に染み込んだ暮らしの足跡が美しく佇まう空間となった。至るところに本が置かれていたが、それはまるで本がペットのように人生の一部として生きている姿だった。初めは書店を持つ事を志していたそうだが、数多くの本に囲まれた空間が与える雰囲気に息苦しさを感じ、自然と本を空間としてのコンセプトとして昇華していったのだという。

繰り返された試行錯誤の末に辿り着いた私家読書制は西村の長年の結露として街に溶け込んでおり、休息の休息の不可分の関係に位置する本の言葉を汲み上げ続けている。西村という地域を中心として、宿としての憩いの空間とアナログの感性が触れ合う中間地点をしっかりと結んでいる。そしてこれは「一冊の本」に集中する時間を持つ事の現在的価値を、空間での経験と物語のを悟らせる努力に繋がっていく。

「リラックスした雰囲気で本を読める空間を作りたかったんです。本と本の間、本と人の間に空間を作る事が大切であると考えました。」本に囲まれて本を読まなければならない空間ではなく、ただ自然に本に手が行くような、読みたくなるような空間を作ろうとしたのだ。本も本だが、休息という宿本来の機能が妨害されない事も重要であった。書店のスタッフと丁寧に選別した本を、空間を含ませて配置し、一貫したトーン&マナーで韓屋でしか感じられない固有の韓国的感性を成立させたのだ。

ここには本と関連する経験が溢れることなく盛り込まれている。気に入った本の文言を筆写することはもちろん、本の中の文章を誰かの手書きで書いておいた「本取り」で本を紹介する。本とは関係なく、リラックスした雰囲気で文章を書けるように文房具類を直接製作し、紙の本特有の質感を加えた。冊架図のコンセプトで作ったしおり、記録をする録、文書の冊を刻んだ冊子で一読一泊ならではの固有の色を吹き込んだ。「書飲夜読」というウェルカムドリンクには、街の暮らしを溶け込ませている。
[書飲夜読は西村に位置するバー・チャンバのイム・ビョンジンバーテンダーと共に作ったノンアルコールカクテルである。]

このような本が中心となる空間で、Z_LabとSTAYFOLIOは希薄かもしれないが、私たちの日常をより一層強固に繋いでくれる古い何かが感性と感覚を目覚めさせる。今後も西村の至る所に隠れたスポットをジーステイト連結する西村遊戯という大きな枠組みの元でローカルの可能性を発見するコラボレーションを継続する予定であるとのことなので、西村での彼らの今後の歩みも気になるところだ。
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location

西村の路地と本の間を ゆっくり歩く一日

急速に流れていくソウル都心のその流れに映っている街がある。仁王山の麓の景福宮の西側の村、西村だ。過ぎ去った歳月の足跡と膨大な記憶を抱き続ける狭い路地が迷路のように広がっている。開発の論理を正義と信じ、毎日新しい服を手に取るソウルの景色とは違い、ここだけは静かな路地の間をゆっくりと流れる時間の流れを感じ取る事が出来る。

古い韓屋と生活の歴史が積もった道の跡は、現代との絶妙な調和を形成している。何よりも好きなことを望む人勢の中で、飾らずに生きていく人々が西村に生きていく。そのためか、他ではなかなか感じられない独特の趣と叙情が込められている。通仁市場と世宗村へ向かう道には人らしい情感が溢れ、角を曲がると小さな美術館とギャラリーに出会う。ひっそりと佇んでいて小さいが、はっきりとした色を持つ店がいつまでもそこに居るのだ。それぞれの場所で暮らし、西村固有の色として受け継がれていく。

西村で生きた本と関連した歴史的な内容も広く不快。昔から多くの文人が西村で生まれ育った。当時、ジュンスバンと呼ばれた西村で世宗大王が誕生し、ソン・ガン、ジョン・チョル、イ・ハンボクの家跡が存在し、近代にはユン・ドンジュ、ノ・チョンミョン、イ・サンなどが留まった。本はこのように西村と切り離すことが出来ないものであるが、何故か書店だけは長く同じ場所に留まる事が出来なかったのだという。好きだった町内書店まで姿を消すと、ステイポリオのイ・サンムク代表は三坪余りの事務所の一階の空き店舗を「一冊書店」としてオープンする事に決めた。西村固有の縁を引き続ぐためであった。

今回は宿の空間に本の息吹を吹き込む。本が与える物質的な感触と深みを感じることの出来る小さな韓屋に出会い、西村のゆったりとした叙情を引き継いでいる。狭く趣のある入り口を経て、一度二度三度路地を曲がると、葡萄の木の下の小さな木製の門に出会う。本を開くように扉を開くと、そこには韓屋が広がっている。昼間はゆっくりとした足取りで西村の路地を歩き、夜は完全な没入感を呼び起こす空間の中で一冊の本を一日である。一読一泊は、隠れた路地の果てで西村の旅を完成させるのである。
MAKING STORY



#
一読一泊を経営する夫婦は、古びた楼下洞の韓屋に現代を調和させ、固有の韓屋の趣と淡泊さを生かした結果今の様な姿に至った。修繕工事が手際よく行われ、夫婦の完成で最新の注意を払い手入れをしたおかげで、建築的には更に手を加える必要はなかった。ただし、一軒家の宿という特性に合わせて端正に整理して空間を空ける必要があった。最も大きな変化があった所は本来、洋服部屋と洗濯室があった屋根裏の下のダイニング空間だ。空間を最大限有効活用することで多数が囲んで座れる大きなテーブルを配置し、読書をはじめとする食事や茶道など多様な活動が可能な空間とした。

低い階高の2階屋根裏をどのように整理するかについては色々な異見があったが、後に低い小盤を配置し、考えを整理するための空間として余白の美が宿らせたのだ。紅松は高い耐久性を誇り、韓屋資材としては最高級の松の木材に当たるが、赤みがかった色味があり、これを減らす必要があった。そのためにこれをトーンダウンする暗い色味と質感でトーン&マナーにし重みを加え、本を読む際に最も快適な空間のために家具を作成し配置した。#
SPACE

本と本の間に存在させる もう一つの空間

ゆったりと路地の風景を通り抜ける一泊一泊は、本への没入を牽引する空間だ。 一握りの自然を庭の中に完全に取り入れた空間に踏み込むと、韓屋は秘密の中庭野中で本と人を自由に滞在させる。風がかすんで、風が刻まれていく。本が開く世界に私を任せて沈潜させる一夜で、ページをめくりながら人生を整えていくのだ。

ここは本を読んで、その余韻を文に残すことが自然に行われる空間である。各々が好きなところに座って「別に、同時に一緒に」本を読み、本を媒介に手に持った本を置いて話を交わす。 コの字型構造で寝室とダイニングルームが向かい合っており、どこにいても視線がすぐに触れてぶつかる。 本を読みながら顔を上げると、韓屋の小さな中庭と重なる幾重の窓へ目線が自然と移り、本を読む際に少し狭まっていた時間に余裕を与える。本の読み方や堪能の方法も空間のいたるところに浸透している。

門をまるで本を開くように開けて入ると、韓屋軒下、暖かい日差しの下、中庭の白樺が歓迎してくれる。左手には細かい什器で丁寧に構成されたキッチンとリビングがある。ほのかな光を透過する韓紙、中庭に向かっている窓際にはお茶一杯の余裕を楽しめる小さなテーブルが置かれており、障子越しには一切の無駄のない寝室が位置している。

暖かい布団の下で目を覚ますと、時間帯によって異なった姿で刻まれるほのかな光の波に視線が届く。また、手を伸ばして庭の方に窓を開けると、中庭の白樺と刻まれる影が私を歓迎してくれる空間になっている。

中庭の右側は大きなテーブルがあるダイニング空間となっており、一緒に集まって食事と茶道、そして本の話を楽しむことが出来る。その隣の原木のはしごを登っていくと、雨音と光が滴り落ちる開かれた窓の下に、また別の布団と屋根裏が目に留まる。つま先の下に砕ける日差しのように現れた垂木と天窓を眺めながら寝転んだり、布団の上に座って本を読む快適な時間を提供してくれる。揃った小盤の上には紙の質感をそのまま感じられる芳名録ノートとしおりと筆記類が置かれており、鉛筆の音を聞きながら気に入った文句を筆写し、思い浮かぶ考えを書き留めておく事が出来る。

まるで私たちにだけ完全に許されたような、踏み込むと軒下の空の下で光が砕ける中庭の空間は、一読一泊での一夜をさらに特別にしてくれる。自然の変化、時間の流れを内外の大きな区分なく認識させ、韓屋の縁側に座って足湯に足を浸しながら体と心に溜まった疲れを癒す。そして、これまで足りなかった自然に対する渇望と大地の力で満たすのだ。あなたは忙しない世の中から抜け出し、西村の小さな韓屋で本に没頭する事が出来る空間を得たのだ。
INTERVIEW

Z_LabとのInterview

stayfolio
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どのようなきっかけで一読一泊を始めることになったのでしょうか。 ヌハドンの小さな韓屋をどのように発見し、ステイの空間にアクセスできたのかお聞かせいただけますか?
[パク・ジュンヒョン]
西村の大変古く小さな韓屋を買って、自らの手で修繕工事をして手入れしてきた建築主夫婦が自分達の空間をSTAYFOLIOに任せたいと思った事がきっかけです。西村に引っ越してきたばかりの頃、Z_Labのクラアントでお会いした方々でしたが、運良く知人の紹介で再会出来たんです。西村の特色に合わせて韓屋の価値を尊重し、現代的なテイストを加えていく事に共感してくださったおかげか、引越しの際に一読一泊の韓屋を課しきっていただけました。これを導いてくださったSTAYFOLIOとプロジェクト企画およびデザイン、ブランディング過程を共にしました。その頃ちょうど『一冊の書店』を計画していたので時期的にもバッチリでした。本をひたすら楽しめる場所、または一冊の本と共に休息出来る宿を作れればいいなと思っていましたが、西村という町を誰よりも愛し、その色を守っていきたいと思う方々に出会ったことで実行に移すことが出来ました。
一読一泊の韓屋を初めて見た時の感じと第一印象はどうでしたか?また、従来の伝統韓屋と異なる点があるとしたら何でしょうか。
[キム・ナヒョン]
西村でもなかなか見られない階高と天井を持つ、独特のデザインの韓屋でした。小さくて狭い路地の先に佇んでいる端正で清潔な感じのコの字型の韓屋で、古い葡萄の木がエントランスの扉を守っているように見えることも印象的でした。何より建築主の感性で一つ一つ細やかに手入れされていた韓屋であるうえ、4年以上生きた住居空間であるためか、夫婦のライフスタイルや好みがそのままにじみ出ている空間でした。固有の生き方が空間に染み込んでいると言いますか。生活の必要に応じて大切に育てた痕跡と人生が感じられる韓屋でした。ペットとして一匹の猫を飼っていましたが、猫が自由に庭を行き来できるように建具の下の部分を開けてあったんです。そういった小さくて大きい部分から、空間と人生に対する愛着のようなものが感じられました。

何よりも目に映る空間ごとに、視線が届くほぼすべての場所に本が置かれていました。屋根裏を囲む壁はほとんど本で満たされていましたね。本当にそれくらい多かったです。本が人生の一部となり、建築主夫婦の生活と深く結びついているという事が理解できました。本に囲まれた空間と、本という事物の存在に圧倒されたこともあり、自然に本というコンテンツを中心にコンセプトを決めていったようです。一読一泊は建築主の韓屋に行った最初のフィーリングと印象に集中して形にしていったプロジェクトといえますね。
一読一泊を手がける際に、最も大切にした価値観があるとしたら何でしょうか?「私家読書」をモチーフに一読一泊のコンセプトを決めるまでの過程が気になります。
[キム・ナヒョン]
一読一泊の韓屋に触れる事がきっかけで、人々がなぜ本を読むのか、本が人々に与える慰めや意味が何なのかについて考え始めるようになりました。ストレスが溜まって大変な時には、一面識もない誰かの文と本から、心的な慰めや共感を得る瞬間が確かにあったからです。本を読みながら眠りにつく時間は、日常に疲弊した心を慰め治癒することができます。それは仕事と生活に必要なインスピレーションを得ることなんです。

本というコンテンツと西村という地域性、この2つに集中して発見したのが朝鮮時代の私家読書という(有給)休暇制度でした。世宗大王は心身ともに疲れた集賢殿の学者たちが読書をしながら心と体を休める私家読書制を実施しました。西村地域は世宗大王が生まれ育った街ですし、本を読む憩いの時間で私を満たし、再び日常を生きていく私たちの先祖の長い知恵を引き継ぎたいという考えから計画する事となりました。
オフラインの時代が終わり、紙媒体の力が弱まっている昨今、宿の空間とアナログ的な本の感性が触れ合う地点がどこにあるとお考えですか?また、宿に滞在しながら「一冊の本に集中する時間を持つこと」の現代的な意味と価値は何でしょうか。
紙媒体の力が弱くなったと言いますが、実は人々は本を通じて各々の感性を表現し他人の感性を感じ取っているので、それ自体の魅力と媒体としての力は代えがたいものであると考えます。本を読む場所に対するニーズが確かにあると思いますね。自発的孤立と没入の情緒を呼び起こす宿の空間で、「一冊の本」に完全に集中できる時間的余裕を享受することは明らかに化学作用を起こしますから。時空間のトーン&マナーが一貫して形成されている空間で本を読むと、インスピレーションの深さと交感の濃度が明らかに違うでしょう。スマートフォンの普及後、絶え間ない関係網に接続されている現代人たちに、本を通じた癒し、そして散歩のような私有行為ほど生活の憩いの場になってくれるプレゼントはないのではないかと思います。デジタル環境から抜け出し、紙の本の質感を感じながら深い思索を楽しむことができる読書は、今や過去の私家読書制のように休息の概念として昇華される時代となりました。誰かの視線と感性で細かく選別された本を宿という非日常的な空間に滞在しながら享受する時間は、きっと長い旅のように疲れた日常に活力を吹き込み、人生のインスピレーションをもたらしてくれると思います。
一読一泊というネーミングはどのようにして決まったのでしょうか?
一読一泊というネーミングは、実は私たちのアイデアではないんです。上岩洞に位置する町内書店「ブックバイブック」で一冊の本をそのまま楽しめるステイ「一読一泊」を短期間運営したことがありますが、その時の語感と実際ブックバイブックを愛してくださったファンの方々が残してくださった宿舎レビューが印象的だったので忘れられなかったと言うべきですかね。残念ながら、上岩のブックバイブックも、一読一泊もなくなってしまいましたが。西村のガガーリンという書店も閉店することになり、個人的に「書店の没落」に対する残念な感情が大きかった気がします。それで西村に意味のある文化の息吹を吹き込むことができる書店空間を水平的ホテルのようにも捉えていました。建築主とも以前の「一読一泊」の話をすることになり、自然にブックセラピーステイコンセプトに絞っていったようです。そうしてブックバイブックのキム・ジンヤン、キム・ジナ代表に許可を得てネーミングを続けることができるようになりました。お互いにとって意味が大きかったようでした。
本を読むために更に適切なスタイルの空間を実現するためにZ_Labならではの方式や方向性はあるでしょうか?また、最も気を配った箇所がありましたら教えていただきたいです。
[キム・ナヒョン]
まずはリラックスした気持ちで本を読めるようにすることですかね。心の速度をゆったりと落としていって心理的に安定した状態で手が本に自然に触れるようにです。本に圧倒されて読まなければいけないという気持を抱いてしまうのではなく、「読みたくなるように」環境を作り込んでいく事こそがブックステイ本来の役割だと思いました。2階の屋根裏も本で埋め尽くされたユニークな空間にしようという意見がありましたが、後に空間に余白を作り出すことに集中することとなりました。結果的には余白のある淡々とした空間こそが、本を読むにはより良い雰囲気を作り出せる事に気付くことになりました。

[キム・ギス]
ブックステイは多いのが事実です。一読一泊は他のブックステイに比べて本の量がはるかに少ないです。しかし、そのような点が一読一泊だけが持つ強みだと思います。それだけブックキュレーションに気を使ったからです。Gラボデザイナーたちと「一冊の書店」チームが一緒に議論をして決定しました。一読一泊を楽しみに来られる方々の好みを最大限考慮して、彼らが好きで、また読みたがるような本を細かく選別しました。空間の特性と演出される状況に沿って本の配置にも気を配りました。例えば、寝室では軽く読める写真集をつま先スタンドの横に置き、キッチンには料理関連の本を、大きなテーブルのあるダイニングスペースには奥行きがあるので、読み切るのにもう少し時間が必要な本を置きました。また、本とともにリラックスした雰囲気を楽しみたいという方もいらっしゃると思うので、西村の「チャンバ」とコラボして作った「賜暇夜読」というウェルカムティーで、町内の経験をステイに溶け込ませ、本と似合うコンテンツや様々な楽しみどころを作りました。
一読一泊は西村の静かな韓屋に、本を中心としたコンテンツと空間ブランディングの役割がよく発揮された宿であると思います。空間に一貫したブランド的経験と価値を吹き込むための過程と一連の努力についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
[パク・ジュンヒョン]
私たちが最も悩んだ部分は、本をどんな雰囲気の中で読ませ、またどんな方法で本に自然に接することができるだろうかというポイントでした。大きく二つに分けて考えました。一つはSTAY内部に本を読みやすい雰囲気を造成・演出することで、もう一つは本に関するコンテンツと共に本を読む様々な方法を空間の随所に染み込ませることでした。これを一貫した空間経験で解きほぐす(ブランディング)作業が何より重要でした。本に接する方法も、単に本を読むだけでなく、気に入った本の文句を筆写したり、本と関係なく文章を書く経験ができるように空間を演出しました。それによって家具のデザインや空間配置も変わりました。本をもう少し違う方法で楽しんでいただくために始まったプロジェクトなので、ブランドデザイナーであるギスさんの役割が大きかったですね。

ギスさんが出したアイデアの中には、筆写以外にも、本の中で好きな文章や文句を書いておけば、誰かがそれを読むことで自然に本に対する好奇心が湧くようなギミックもあります。本が媒介になって人と人を連結するのです。そのために備えておいた文具類も我々が作りました。そして一貫して見えていなかった紅松の赤い木々の色合いを、適切なトーン&マナーで整えてくれました。そのためか、一読一泊は私個人的にコンテンツとデザインの力を感じることができたプロジェクトでした。これまで西村の色々な韓屋を作業しながら見えない限界を感じたこともありましたが、しっかりとしたコンテンツが空間を満たせば他のいくつかの部分が満たせていなかったとしても、空間の色とブランド的価値を引き上げることが可能であるということを体感することができました。

[キム・ギス]
本を読む方々には、本を読んだ後の余韻を文に残すというニーズがきっとあると思ったんです。そこで考えたのが、ブックマークとしおり、そして芳名録ノートです。今回のプロジェクトはノート製本方式や紙の材質、肌触りなどにも注意しました。普通は中綴じ式で作成すると思うのですが、一読一泊ではページをめくる際に伝わる心地よい感触がノートでも続くことを願っていました。各ページがすぐにめくれるのではなく、次のページへと小気味よく倒れていく微細な感触の違いが重要だと思いました。紙のカラーや質感も一読一泊の空間と統一し、一貫したトーンでまとめあげました。実際、そのような部分を私たちが意図して誘導したからといって、そのメッセージが必ずしも伝わるわけではないのですが、一読一泊は違ったようです。一読一泊芳名録に皆さん多くの感想と感想を書いてくださいました。私たちが準備したノートも全て文字で埋まってしまい、再び製作しなければならないほどだったので、本当に理解してくださった皆様には感謝しています。
一読一泊の空間で注視しないと発見しづらいディテールや建築(あるいは状況)があればご紹介お願いします。また、個人的に愛着のあるスポットはどこでしょうか?
[キム・ナヒョン]
コの字型の韓屋なので、庭に向かって窓をすべて開けると窓が幾重にも重なって見えるんです。好きな本を、それぞれが望む空間に座って読みながら、自然と目を向けられる空間となっています。額縁の中で幾重にも重なる風景と建具の格子模様、そして扉の美しい比例感に魅了されると思います。そしてこの景色を確認するために一人で訪れた事があるのですが、その日は天気が良かったので窓を開けておくと、ハウォンという小さな子供たちの笑い声が鳥の鳴き声と一緒に聞こえてきました。忘れていた子供の頃の記憶を呼び覚ますような小さな生活騒音が、西村の韓屋と狭い路地の風景だけが与えられる叙情かもしれないと思いました。白色の騒音のようで、本を読むのにはぴったりでした。

[パク・ジュンヒョン]
白樺がある中庭ですかね。もともとは水道があったので小さな空白の空間でしたが、仕上げ作業を前に庭をどう飾るかについて多くのアイデアが出たんです。しかし結局、すっかり空にして白い砂利を敷いて白樺を一本植えることにしたんです。シラカバの皮が白く薄く剥がれて、紙の代わりに使われたというお話を思い出したんです。直接白樺を買いに行き、木の形や高さ、大きさなどを現場スケッチしながら選んで選んだ木だからか、より愛着が湧いて、一読一泊の雰囲気に美しく溶け込む景色が出来上がりました。

[キム・ギス]
一読一泊の屋根裏で寝た経験です。高いところが好きではないので迷ったのですが、上がって横になってみたところ本当に居心地が良かったです。露出した垂木と天窓を見ながら眠り、開口部の窓から入る日差しを感じながら起きる感覚も格別でした。私が友人と訪れた際にはちょうど雨が降っていて、窓に触れる雨音も心地よかったです。屋根裏の布団の上に座って本を読んだり、サイドテーブルに座って思い浮かぶ考えを書いていくことは、一読一泊にいらっしゃる方にぜひおすすめしたい空間経験の一つです。
西村遊戯との関係の中で、今後の一読一泊の役割と計画はどのようなものでしょうか?
一読一泊はコンテンツとして西村という町が持つ見えない力と唯一無二な魅力を実感できたプロジェクトです。おかげで、かすかなアイデアだけにとどまっていた水平的ホテル-西村遊戯プロジェクトを一層明確に具体化することができました。西村に位置する5つのジーステイ(Z_Stay)を、あちこちに点のように散らばっている隠れたグルメやカフェ、小さなお店と水平的に連結し、一つの有機的形態で経験させる「西村遊戯」として発展させていきたいと考えています。そしてそのような求心点の役割を果たす西村遊戯ラウンジとして「PH西村」を計画しています。これから多くのクリエイターの方々と意味のあるコラボを進めていき、西村だけの経験を積み、隣人と共存する支店になっていきたいと考えています。
STAY

本を通して、また自身を振り返る空間

空虚な日常、何をもってしても満たされない時、本が必要な瞬間がある。私の心に触れる事が出来る一冊の本を手にして、一文ずつ意味を振り返りながらゆっくりと読み進めていくと、崩れていたパーツがいつの間にか再び集まり、心の中の不安を鎮めてくれる。デジタルが普及し、メディアが映像中心のプラットフォームに転換されたとはいえ、ゆっくり本を読みながら息を整えることは、傷ついた心に触れ、日常の中の軌道を取り戻させることなのだ。結局、自身の考えを力強く育ててくれたのは、一ヵ所に座って時間と心をかけて詰め込んだ本棚の存在だった。『読む言葉』で言うように、本を読むことは私を読んで人生を作ることであるが、同時に体を使う行為でもあるために、大きな刺激なしに本が繰り広げる他の世界に入るための空間を必要としていたのだ。

本を読む空間を強く渇望していた私に、一読一泊のオープンの知らせはまさに恵みの雨のようであった。それも西村に位置しているのだから、私には行かない理由など無かった。西村と本の組み合わせだけでも十分であるように感じられたのだ。西村は私が生まれ育った街ではないが、私の人生の一部を繋いで一貫性を持続させ、私に親近感を与えてくれた。季節によって、誰と一緒にいるかによって、一日の時間帯によって変わる多彩さが感じられる場所である西村であったため可能であったのだ。一読一泊は、そんな西村の路地の奥深くに位置していた。誰かが何気なく置いておいた椅子と植木鉢に再び西村の素朴な趣を感じながら一読一泊に足を踏み入れた。清潔で居心地の良い雰囲気に身を溶け込ませると、韓屋は白樺一本と秘密の中庭と共に歓迎してくれた。固い木目が感じられ垂木が見える高い天窓の下、伝統的な建具と格子模様の模様が軒の屋根線と調和している様は本当に美しかった。

それほど大きくない空間であったが、部屋の区分なく流れるように自然に繋がった動線が存在していて、何よりも普段から読書を楽しむ人であっても、読書が日常でない人であっても気楽に、至極自然に触れることの出来る空間であった。ブックステイと言えば、普通は本棚にぎっしりと差し込まれている本の重い存在を連想するものだが、一読一泊は一冊の書店で細かく選別した本だけを選別して置いている為、一冊の本に強烈な好奇心を抱かせるのだ。その空間のどこに腰かけても、私の手の届くところに適切な本が置かれていた。自然と本を読みたい気持ちが私の中で芽生え、本を知っていく楽しさに身を任せることが出来た。

本の世界に没頭するための証明の明度や室温、音楽、香り、家具などが細かく調整されており、本を挟んで自然と言葉を交わしたり、本の世界を楽しむ姿を互いに眺める事が出来た。本を「深く」読むこととは、ときには本を読むことを止めて一ヶ所を限りなく眺めたり、本と私の間をうろうろすることであるというが、一読一泊はこれを可能にする空間だった。そのような「間」に私は静かに留まっていた。床を彩る光の影に時間の流れを読み、紙の本の質感を感じる。一読一泊で感じた孤立と没入の時間を通して私は「”まだ”の世界」だけに留まっていた本を拾い上げて(カン・ミンソン『相互貸借:私の人生を貫く本』)私自身を覗きにきた心とやらを育てることが出来たのだ。
4 POINT OF VIEW

ORIGINALITY

一冊の本を読む思索に立ち止まり、日常を整える空間

スマートフォン一つで時空間の制約なしに常時接続(always-on)されるデジタル環境で本を読むことは、いつしか多くの誘惑に打ち勝つものとなっていた。私たちの集中力を乱す多様な刺激の環境から離れて本を読むという平凡な時間は、息苦しく走ってきた日常の中に小さな憩いの場として存在してくれる。本を読む方式が電子書籍、スクリーン読みなどデジタルなレベルに移ったとしても、紙の本が与える感性と心地よさは依然として残っているのだ。STAYFOLIOとZ_Labの一読一泊は、本を通して感じる事の出来る穏やかな流れに身を任せることの出来る一日であり、疲れた日常を締めくくることの出来る新しい休息の方法でもあるのだ。本の世界に身を任せる穏やかな時間として、ページをめくることで自身の心に触れる事が出来る。

DESIGN

本の懐に潜む西村の静かな韓屋

一読一泊は迷路のように広がった西村の路地に溶け込んだ小さな一軒家韓屋であり、その固有の趣と淡泊さは本と共に「”まだ”の世界」に留まる事を可能としてくれる。本と繋がった多彩な空間経験がふんだんに盛り込まれている。縁側に座って足を暖め、穏やかな気持で本を読む一方、二階の低い階高の屋根裏で小さな小盤(ソバン)に座って、紙面を走る鉛筆の音を聞きながら心の余韻を書き出していく。一握りの自然が完璧な孤立感を抱かせる中庭が存在し、木製の窓を全て開けておけば幾重にも重なる建具越しにお互いの視線が触れ合い、視線が留まる全ての事象は美しい。一読一泊の韓屋でしか味わうことの出来ない美しさである。

Hospitality

本の物語を通して西村という世界を新しく解釈した人々

西村を誰よりも愛し、その趣を保ち続けたいと願う人々が作った空間。STAYFOLIOとZ_Labは本が人生の一部となり常に本と共に生きる人々の韓屋を、ステイの空間として新たに作り上げたのだ。既存の構造の美しさを生かし、西村の古い韓屋を保存し、その価値を守り、そこに新しく特別なテイストを吹き込んだ。西村という街に結露として溶け込んでいる本の物語を私家読書制を利用して抽出することでステイにしたのだ。一冊の本に没頭する時間が、西村の穏やかな叙情を受け継いでいく。

PRICE

既存の価値観に取って代わる、都心の中に隠れた旅行

最近になって日常の風景は大きく変わってしまった。日常を喚起し遠くへ旅立ちたいと願う時、都心の中に潜む韓屋ステイは適切な代案となってくれる。一読一泊は西村の路地を練り歩き、本と余白の間に暫し立ち止まる旅を完成させてくれる。遠くの街へ足を運ぶ必要もない。ただ私たちを世の中の外側へとエスコートしてくれる本を見つけ、その本と共に旅行する気分を存分に堪能することは、私たちの日常に必要となる精神的高揚を与えてくれるのである。

ステイ名
of.onebookstay

ステイタイプ
韓屋

連絡先

住所
11-1, Pirundae-ro 3-gil, Jongno-gu, Seoul, Republic of Korea

人数 / 客室数
4~4人 / 1客室

価格帯
¥31,209 ~ ¥36,410.5

チェックイン / アウト
18:00 / 14:00

こだわり
調理

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